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WASAVIESについて

WASAVIESとは?

WASAVIES(WArning System for AVIation Exposure to Solar energetic particle)とは,航空機高度における宇宙線被ばく線量率をリアルタイムで評価し,急激な線量率上昇が検知された場合は警報を発信するシステムです。科学研究費補助金 新学術領域研究「太陽地球圏環境予測:我々が生きる宇宙の理解とその変動に対応する社会基盤の形成(PSTEP)」の枠組みの元,情報通信研究機構,日本原子力研究開発機構,国立極地研究所,広島大学,茨城工業高等専門学校,名古屋大学が協力して開発しました。

開発の背景



図1 大気圏内の宇宙線挙動

宇宙空間には,太陽起源や銀河起源の様々な宇宙線が存在しており,月面や宇宙船内は,放射線環境の観点から見ても生命にとって過酷な空間です。私たちは,地球の磁場や大気に守られているため,それらの宇宙線に直接被ばくすることはほとんどありません。しかし,高いエネルギーを持つ一部の銀河宇宙線は,大気中の原子核と核反応を引き起こして極めて透過力の強い中性子やμ粒子を生成するため,地上にはそれらの2次宇宙線が絶えず降り注いでいます(図1参照)。また,巨大な太陽フレアが発生した場合は,太陽起源の高エネルギー放射線が極地方に大量に降り注ぐ可能性があるため注意が必要となります。

宇宙線の強度は高度の上昇に伴って高くなるため,航空機搭乗時には,地上よりも被ばく線量が高くなります。そのため,航空機乗務員に対する宇宙線による被ばく線量の管理に関するガイドラインが,2005年に文部科学省により策定され,航空機乗務員の年間被ばく線量管理目標値(5 mSv)が設定されました。これを受け,銀河宇宙線による大気圏内の被ばく線量を計算するソフトウェアEXPACSや,EXPACSを用いて任意の航路上における被ばく線量を計算するソフトウェアJISCARDが開発され,航空機乗務員の被ばく線量管理に利用されてきました。一方,太陽フレアに伴う被ばく線量に関しては,その評価モデルの開発が科学的に困難であったことや,この10年間それほど大きなイベントが発生しなかったことから,これまでの評価には含まれていませんでした。しかし,過去においては,航空機高度における被ばく線量率が太陽静穏時の100倍以上にもなるイベントが発生しており,太陽フレアの影響も考慮可能なモデルの開発が急務でした。

国際民間航空機関(ICAO)では、主に太陽活動を原因とする無線通信障害、測位誤差の増大と並んで、宇宙放射線による被ばく線量の増加を懸念しており、宇宙天気情報として宇宙放射線被ばくに関する情報が必要とされています。ICAOでは、決められた閾値(表1)を超える線量率が推定される場合にAdvisoryと呼ばれる情報を発信すると決められています。

このような背景から,国内の様々な分野の研究者が協力してWASAVIESを開発しました。

表1 ICAO radiation advisoryの閾値
STATUSCondition
Moderate25,000ft-46,000ftの間で30μSv/h
Severe25,000ft-60,000ftの間で80μSv/h

モデルの概要

航空機高度における宇宙線強度は直接観測できないため,WASAVIESでは,物理モデルを介して,地上と静止衛星軌道で観測した宇宙線強度のデータを内挿することにより航空機高度の宇宙線被ばく線量をリアルタイムで推定します。太陽静穏時は,宇宙線強度の時間変化がそれほど大きくないため日平均の太陽活動度(FFP)に基づいて1日間隔で,太陽フレアが発生して地上での宇宙線強度が有意に上昇した場合(Ground Level Enhancement, GLEと呼びます)は5分間隔でデータを更新します。

WASAVIESの計算アルゴリズムを図2に示します。その解析の流れは以下のようになります。
  1. 12ステーションの地上中性子モニタ計数率静止軌道衛星GOESにより観測した高エネルギー陽子フラックスを5分間隔でダウンロード
  2. ダウンロードした観測値の時間変化を解析し,GLE発生の有無を判定
  3. GLEが発生した場合は,イベントの特徴を表す4つの物理パラメータの最適値を観測値と磁気圏指標(Kp)に基づいて自動的に導出
  4. 決定した物理パラメータを用いて全世界及び特定の航路における被ばく線量率を計算
  5. 計算した被ばく線量率を可視化してインターネット上で公開


図2 WASAVIESの計算アルゴリズム

例として,2005年1月20日に発生したGLEのピーク時における高度12kmでの宇宙線被ばく線量率,及びそのときの東京~ロンドン間の標準的な航路における宇宙線被ばく線量率を図3及び4に示します。図より,宇宙線被ばく線量率は,基本的には極域や高々度で高くなりますが,その値は緯度・経度・高度に複雑に依存することが分かります。これは,大気圏内に侵入する宇宙線フラックスが磁気圏の状態などに応じて複雑に変化するためです。WASAVIESは,物理モデルをベースとしているため,このような複雑な依存性も精度よく表現することが可能です。より詳しくは,GLEデモページReferenceページにある文献をご参照ください。


図3 WASAVIESの計算エンジンで評価した2005年1月20日に発生したGLEのピーク時における高度12kmでの被ばく線量率


図4 図3の条件時における東京~ロンドン間の標準的な航路上のSEP被ばく線量率

結果の解釈

太陽静穏時の標準的な国際線高度(12km)における宇宙線被ばく線量率は,極域で8 μSv/h,赤道付近では2 μSv/h程度です。太陽フレア時は,この値が100倍以上に上昇する可能性がありますが,そのような急激な上昇は長くは続かないこと,また,数100 μSv程度の被ばくでは人体にほとんど影響はないため,通常時よりも被ばく線量率が上昇したからといって急に対策を取る必要はありません。ただし,積算線量が1mSv(公衆の年間線量限度値)を超えるような可能性がある場合は,高度の低下や航路の変更などを検討する必要があると考えられます。

また,WASAVIESでは,具体的な被ばく線量の数値ではなく,ドイツ航空宇宙センター(Germa Aerospace Center, DLR)が提案するD指標(D-index)で被ばくレベルを表示することが可能です。D指標の具体的な意味合いは,下の表,もしくは文献をご参照ください。

表2 D指標の目安
D指標カテゴリー被ばく線量率範囲(uSv/h)太陽静穏時のバックグランドと比べた被ばく線量率の目安
D0静穏(Quiet)E <5 標準高度のバックグランド変動範囲内
D1微弱(Nominal)5 ≤ E < 10高度40000フィートにおけるバックグランドと同程度
D2弱(Minor)10 ≤ E < 20高度40000~60000フィートにおけるバックグランドと同程度
D3中(Moderate)20 ≤ E < 40国際宇宙ステーション内におけるバックグランドと同程度
D4強(Strong)40 ≤ E < 80船外活動中の宇宙飛行士のバックグランドと同程度
D5強烈(Severe)80 ≤ E1時間で北大西洋往復フライトの積分バックグランドと同程度,もしくはそれ以上

開発チーム

日本原子力研究開発機構  佐藤達彦
情報通信研究機構  塩田大幸,久保勇樹,石井守
国立極地研究所  片岡龍峰
広島大学  保田浩志
茨城工業高等専門学校  三宅晶子
名古屋大学  Park InChun,三好由純